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2014年10月23日木曜日

安倍首相の「アンダーコントロール」発言は、IOCのアドバイスによるものだった

安倍首相は、2013年9月7日、アルゼンチンのブエノスアイレスで行われたIOC総会のプレゼンテーションで、汚染水漏れなどのトラブルが続く福島第一原発の状況を“The situation is under control .”「状況はコントロールされている」と発言した。
 谷口氏によれば、IOCの委員らは、BBCなどによる連日の原発事故報道で事故の深刻さを認識しており、福島の原発事故に対する拒否反応があったという。そんな中、安倍首相の「アンダーコントロール」発言が出た事情について、谷口氏はこう語る。
 「『プレゼンテーションでは首相クラスが事故に対する明確な説明をしないとおさまらない。総会の選挙にも大きく影響する』と、IOCより強く招致委員会へアドバイスがあった。そのため、急遽首相官邸が原発事故についてのコメントを作文し、首相にはブエノスアイレスへ向かう飛行機の中で伝えられた」
 「アンダーコントロール」発言が虚偽であることは、いまだ収束しない福島の現状を見ても明らかである。
 「一国の首相が原発事故について『アンダーコントロール』と言い切ったことにより、IOCが原発事故の重大さを知りつつ、見て見ぬふりをした」
 谷口氏はこう述べ、オリンピックそのものが、虚偽や偽装に満ちたものであることを訴えた。
 さらに谷口氏は、安倍首相や東京五輪・パラリンピック組織委員会会長である森喜朗元首相によって、東京オリンピック招致が進められていったねらいは、憲法を改正し、いかに日本を戦争する国へ近づけてくかであると述べた。オリンピック・ムーブメントの推進を口実に、「人間の尊厳保持の理念」がないがしろにされたままオリンピック教育が行われる恐れと、子どもまで動員した国民統合が行われる危険性を示唆した。

情報公開請求を徹底的に行い、市民による監視を

 「オリンピックいらない人たちネットワーク」代表の江沢正雄氏は、長野オリンピックの反対運動を振り返る。
 「長野オリンピックのときは、職員が『もう来ないでくれ』と言うほど帳簿の情報公開請求をした。オリンピックに市民の税金を使っておいて、その使途も明らかにできないというのはおかしい。帳簿は燃やしてしまってないということだったが、その後、週刊朝日がその帳簿の内容の一部をすっぱ抜いた。田中康夫知事(当時)が帳簿の行方を調査する委員会を立ち上げたところ、情報公開では出てこなかった文書がたくさん出てきた」
 江沢氏は、当初24億円で作る予定だった長野オリンピックのボブスレー競技場の建設費が最終的に100億円かかったことや、ジャンプ台に予算の3倍もの費用がかかったことにも言及。「長野オリンピックは当初、1兆5千億円の投資で、2兆3千億円の経済効果があると試算が出た。結果的には県と長野市に、1兆5千億円を上回る負債が出てしまった」と、経済的に成功とは言い難い結果であったことを指摘した。
 市民にできることは、「情報公開請求を徹底的にやること」だと江沢氏は語る。最低限やるべきこととして、「オリンピックに使われる、すべてのお金を別会計でやってもらって、一体何に使われたかを住民が監視すること。文書は通し番号を付け、中抜きをされないように住民がチェックすること」を挙げた。
 江沢氏は谷口氏と同様、今回のオリンピックは、最も危険なムードの中で行われると語る。「何年も先の、一発お祭り型のイベントをぶち上げてみんなを引っ張れば、文句を言わないという手法に引きずられてはいけない」。「オリンピックをやるということは、全国の原発を再稼働させるということにつながっていく。安倍にNOと声を上げるのと同様に、東京オリンピックにもNOと声を上げてほしい」と訴えた。

オリンピックそのもののあり方の再検討を

 元日弁連会長で弁護士の宇都宮健児氏は、谷口氏・江沢氏の講演を受け、「安倍政権のオールジャパン体制づくりに、オリンピックが利用されている。1936年のベルリンオリンピックで、ナチスの権威を確立するためにオリンピックが利用されたことを思い出させる」と語る。
 「オリンピックそのものがひとつの商売になっていて、商売を拡大するためには大規模で豪華な施設が必要となり、オーバーなオリンピックになっていく。それはオリンピックの精神から外れてきていると感じる」と続けた宇都宮氏は、アジア大会の次の開催地に決定していたベトナムのハノイが、財政の問題で開催地を返上したことを紹介し、次のように提言した。
 「アジア大会の規模でもそういうことが起こる。スポーツをとおして人間の尊厳を守り、平和と友好の祭典であるオリンピックは、世界のどういう地域でも開けるものでなければおかしい。今のオリンピックは大都市でしか開けず、偏っている。オリンピックそのもののあり方を再検討しなければならない」
 「(東京五輪)開催まであと6年。オリンピックを返上することは可能か?」という参加者からの質問に、江沢氏は「東京は返上しますと言えばいいだけ」と回答をした。
 一方、宇都宮氏は「招致が決まったものを返上するのは難しい。オリンピックをこれまでの延長ではなく、コンパクトでシンプル、環境に配慮した、あたらしい21世紀のオリンピックに方向転換すべき」と、自身が2月に都知事選に出馬した際の政策を振り返った。

カジノは人の不幸で成り立つビジネス

 9月29日に招集された臨時国会で審議されるカジノ解禁法案。後半は、弁護士の新里宏二氏と、ジャーナリストの古川美穂氏がそれぞれ発言した。
 新里氏によると、「カジノ解禁のねらいは海外からの投資と、高齢者の個人資産を市場に流して経済を活性化させること」であるという。高齢者のタンス預金が狙われていることを警告し、カジノの負の影響として、ギャンブル依存症を挙げた。日本でギャンブル依存症の疑いのある人の数は、536万人に上り、これは成人の約5%にあたる。アルコール依存症と比べると、5倍も高い数字になっている。
 「韓国のデータはないが、次に高いのはオーストラリアで2%。ラスベガスのあるアメリカは1.8%なので、日本の数値の高さがうかがえる」と新里氏はデータを紹介し、日本のギャンブル依存症の割合の数値が高い原因として、パチンコが普及している環境を指摘した。
 「ギャンブル依存症の方が家族を失い、仕事を失い、もう死ぬしかない。そういう悲劇をずっと見てきた。人の悲劇を前提とした経済政策は、経済大国の日本がやることなのか。それをオリンピックに合わせてやろうとしている為政者の考えがわからない。カジノの売り上げが上がれば上がるほど、損をする人がいっぱい出る」
 新里氏は、カジノを「不幸を生むビジネス」だと断じた。

ギャンブル依存症は人の命にかかわる問題

 古川氏は、ギャンブル依存症が病気だと認識されず、見過ごされてきたことについて言及。「自殺率が高いだけではなく、パチンコ屋の駐車場に子どもを置き去りにして死亡させる事件も、ギャンブル依存症により判断能力が低下したため引き起こされる」と、人命にかかわる問題であることを指摘した。
 さらに、「日本ではギャンブル依存症に対応できる医療機関も不足しており、予防対策もできていない」と述べ、現状のギャンブル依存症対策が不十分なまま、さらにカジノを解禁しようとする政策に疑問を呈した。
 古川氏は、安倍首相も最高顧問に名を連ねるIR議連(国際観光産業振興議員連盟)、カジノ利権にあずかろうとする企業や広告代理店など、カジノ推進派の存在にも触れた。
 「推進派のなかには、『カジノができてもギャンブル依存症は増えない。カジノの上がりで依存症対策をすれば、むしろよいことではないか』と主張する者も出ている。自民党の中では、パチンコの換金を合法化して税金をかければいいという案も出ている」
 古川氏は、カジノ推進派が主張する根拠のないロジックに危機感を募らせる。
 「多くの国民に被害を及ぼす危険のあるカジノ解禁に対して、国としてあまりに楽観的すぎる。オリンピックに間にあわせるためにカジノ解禁法案を通して、細かいことはあとで決めればよいというやり方は、まるで特定秘密保護法を強行採決したときのようなやり方である」(取材・記事:平川啓子、記事構成:安斎さや香)

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