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2014年1月2日木曜日

経済動向

ヨーロッパの文献で中国が初登場するのは「エリュトゥラー海案内記」です。

インド洋に吹く季節風を利用した遠洋航行で海上貿易が始まったこの頃(西暦1世紀中頃)から、グローバリゼーションは始まっています。インドからは胡椒・綿布・象牙細工などが輸出され、ローマやギリシャからは陶器、ガラス器、酒、金貨など輸出されています。西洋から輸出するものよりも東洋から輸入するものほうが多いので、西洋諸国は慢性的に赤字でした。インドへの金貨流出が当時のローマ経済にとって大問題であったことが、エリュトゥラー海案内記に記されています。
この傾向は近代や現代になってからも同じでした。
貿易不均衡による歪みを修正するために、最終的には強制的な対外債務の踏倒しが行われたりしてきました。
インドからの綿花や香辛料やお茶の輸入が増える一方なのに、インドに対して輸出するものがほとんどなかったイギリスは、最後にはそれをごまかすためにインドを植民地しました。
基軸通貨特権を利用して労せず他国の資源や労働を買い占めることに慣れて製造業が衰退し貿易赤字になったアメリカは、戦争ばかりしているので財政債務も膨らみました。そのため、ドルの信用が失墜しその先安観が顕著になると、フランスなどはドルと金の交換を要求するようになりました。アメリカは第二次大戦を利用して世界中の金を集めていましたが、今度はその金の流出におびえることになります。そこで、ニクソンショックで金の兌換を中止しました。
金が野蛮な通貨で価値がないとFRBやアメリカがいうのなら、兌換を停止する必要もなく、すべて放出すればいいのです。アメリカが公には金の保有量を維持していることはF建前とは逆に金の価値を認めていることを意味しています。

西洋から東洋への金流出の流れ、西洋の借金の踏倒しという歴史上のパターンは今年も繰り返されたといえます。
アメリカは量的緩和でドルを希薄化させ、既存の債権者からの借金を実質的に棒引きしようとしました。
これに対して、アメリカの最大の債権者である中国などがいかに対応するかが今年のテーマだったと思います。

リーマン・ショック直後はリスクオフのドルキャリーの巻き戻しでドルは上昇しました。しかし、そのレパトリが一巡した後は、ドルはアメリカの実体経済の弱さと量的金融緩和による希薄化を嫌気して売られ始めました。
しかし、2012年にはユーロ危機が発生してドルの下落が止まりました。
ドルの下落に合わせるように買われていた金の上昇も止まりました。安全資産である金がユーロ危機で売られたことから、金の安全資産として役割が終わったとかいうピントのずれた意見もありましたが、金の本質は通貨です。ドルの代替通貨である金はユーロ危機によるユーロ売り(それはドル買いになる)に合わせて売られたのです。安全資産としての側面よりもドルの代替通貨としての側面のほうがより金価格にとって重要です。
もっともユーロ危機は大げさに騒ぎ過ぎでした。その証拠に2013年の先進国の株式市場でもっともパフォーマンスがよかったのはギリシャです。
ユーロ危機が落ち着いたことでユーロ売りが止まり、再びドル売りの長期トレンドに戻ったことで、金価格も上昇を再開しました。
そして、QE3がはじまったことで、再び、2000ドル超えを目指し始めました。
欧州危機の時は、金は株などのリスク資産と正の相関で連動して動いていましたが、QE3開始後は、袂を分かつことになります。金価格は上昇が継続しました、ダウは売られました。
しかし、衆議院解散が決まり、アベノミクスが始まってから流れが変わります。
今まで売られていたドルが円売りによって生き返ります。それに合わせて金は少しずつ売られ、逆に円キャリートレードで株が上げ始めました。
それでも、2013年年初は、まだまだ。投資銀行などの2013年の金価格見通しは、総じて強気でした。
もっとも2月ぐらいからすこしずつ金の弱気の予想が出始めます。
そして、おおきく流れが変わったのが3月です。
中国が猛烈な勢いで金を輸入し始めます。
4月になると欧米の投資銀行の金価格予想の格下げが続出します。そして弱気なセンチメントになったところで、狼狽売りとテクニカル売買のストップロスを狙った、大量の売りを仕掛けが発生します。この4月の金暴落によるバーゲンセールに中国の怒涛の現物買いが、群がります。
3月の大量輸入はこの4月の現物需要に対応するため事前に仕込まれたものと推測します。
スパイダーの金ETFの保管庫はイギリスにあります。価格下落により金ETFの保管庫から流出した金は、スイスに輸出されて、そこでアジア向けに鋳造し直されます。そして、香港経由で上海に流れます。そこから陸続きのインドにも密輸で相当数が流れたと思います。
中国人民銀行が、今年のはじめ人民元の為替レートの目標を3%の元高に設定しました。中国は経常黒字で得た大量のドルをドル債券として保有しています。仮にドル債券の価格に変動がなかったとしても、既に保有するドル債券に1年で3%の為替差損が発生することになります。中国は、ドルで世界中の不動産、インフラ資産、天然資源、などの現物資産や株を買占めたり、ユーロ建ての資産を増やしたりしてポートフォリオを分散したり、ドル売りヘッジをいれていると思いますが、それだけでは不十分です。
中国は、人民元切り上げとドル債を購入を今後も継続することの補填として米に現物の金を要求したのかもしれません。

4月に暴落した金ですが、中国の旺盛なバーゲン買いの報道などで下げ止まりました。そして、夏になり、現物需要のレポートで現物金の需要が実際強かったことが確認されたことでリバウンドを開始します。
さらに、シリア問題が発生して金は安全資産としての機能が失われていないことを証明します。
しかし、シリア問題が解決すると、金は再び下げはじめます。
その後のアメリカ財政問題では安全資産として機能しませんでした。
そして、想定されるリスクシナリオが消え、アメリカのGDPや雇用統計などの指標が改善し、QE縮小が決定したことで、金市場は完全に弱気一色になってしまいました。
アメリカの景気回復とQE縮小によってドルの信認が戻るというシナリオがドルの代替通貨としての金の魅力を失わせるという思惑です。
しかし、結局、QE縮小が決定したあとも、ドルの信認は戻っていません。
円は今年安値引けで、円からみればドルは強いように思えますが、ユーロや人民元に対してドルは結局、今年は安値引けで終わりました。

ドル安かドル高かをみるものさしとしては、それぞれの通貨ペアや、ドルインデックス、為替実行レートなどがありますが、決定的に重要なのはユーロドルとドル人民元です。ドル円を含め、その他の通貨はノイズにすぎません。
アメリカとユーロはGDPでほぼ同じです。
欧州の先進国は、日本やアメリカ同様、構造的に成長が止まっていますが、それを日本やアメリカのように無理にバブルを利用して成長路線に戻そうとしていないため(相対的に)、今後の経済の持続性はユーロのほうがアメリカよりもあると思われます。
アメリカと違い、ユーロはGDP比の債務が少ないです。イタリアなどはプライマリーバランスが黒字です。実業がしっかりしているので輸出企業が強く経常黒字です。通貨の担保になる公的保有の金もイギリスやアメリカや日本よりも多いです。マネタリーベースの増加はドルよりはるやか緩やかです。フランスなどは人口動態もいいです。ラトビアがユーロに参加するなど、東欧諸国に通貨圏を拡大しています。先進国としての側面だけでなく、新興国的な成長の伸びしろもあります。アメリカよりも新興国に企業が多く進出しているので新興国の成長の恩恵も受けます。これから成長するアジア諸国と陸続きのユーラシア大陸にあり、資本主義最後の市場のアフリカに近いことで、アメリカより地の利があります。
目先の形式上の景気指標が、アメリカのほうがユーロ圏よりいいという理由だけでドルが買われるとかいうのはピントのずれた意見だと思います。

今までドルを大量にばらまいてきているので、QEを少しぐらい縮小したり、景気循環の底から自然反発で多少景気が回復したりする今のアメリカの状況程度ではドルの信認は戻らなかいと思います。
金利も上昇を開始しています。アメリカのインフレ率と成長率からすると長期金利3.5%ぐらいまでは正常とみることもできますが、それを超えてくるとリスクプレミアムやインフレリスクが高まってきます。

中国の今年の貿易額は4兆米ドルを突破し、米国を抜いて世界1位の貿易大国になりました。
中国は米国を抜いて世界1位の貿易大国へ、今年の貿易額は4兆米ドルを突破も
先進国間の貿易は減少傾向です。一方、新興国間は増加傾向にあります。先進国と新興国間は微増です。
今年は経済ニュースを見ていると。新興国の成長が止まり、先進国が復活したという印象を受けますが、それはあくまでウォールストリートや資本家が保有するマスメディアとそのおかかえのエコノミストの中だけの話のようです。メインストリートの実体経済の流れは違うようです。
ジム・オニール:2013年で一番重要なチャート
これから、ドルの基軸通貨としての凋落は不可避ですが、これと相反するように人民元はそのプレゼンスをますます増していくと思われます。

中国は2014年までに人民元を自由化するとしています。このため、2014年は2013年の3%を超えるスピードでドル安人民元高を許容するようになると思います。そうなると。ドル債の金利上昇のスピードは2013年よりさらに加速していく可能性があります。介入によるドル買いが減り、ドル債買いが減るからです。
金利上昇のピッチが早くなっていくと、金利上昇はアメリカ経済の回復による正常化とかいう楽観的な見方もじょじょに減っていくと思います。
また、株も、手数料の高いヘッジファンドなどから、ETFを利用したパッシブ(インデックス)運用にマネーのシフトが急ピッチにすすんでいます。
これは零細の個人投資家が直接株を買っていることを意味します。群衆心理でパニックになったときバブルの崩壊は激しくなる可能性があります。
量的緩和のマネーは、実体経済にほとんど流れてきていません。資産効果のトリクルダウン効果は非常に限定的です。銀行貸出、給与所得、個人消費、設備投資、輸出量が増えないのはアメリカも日本も同じです。輸入インフレと増税を原因とする悪質なインフレ期待を除けば需要がないのでデフレ圧力が強いです。企業業績という実体経済の裏付けのない株価上昇はバブルであり、持続性はなく、いつかは破裂します。
株式市場も不動産市場も債券市場もダメ、キャッシュで保有しても円安、ドル安が進むとなると消去法で金が見直されてくると思われます。
YOUNG BLOODS 佐野元春

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