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2013年12月9日月曜日

悪徳・強欲企業

従業員からむしり取ることで成り立つ「ブラック企業」

   ユニクロのようなカジュアルファッションは昨今では、ファストフードをもじって「ファストファッション」と呼ばれている。2013年の時点で売り上げ世界一となったスウェーデンのH&Mを筆頭に、アメリカのGAP、スペインのZARA、それに日本のユニクロ(年間売り上げ1兆円規模)が猛追する構図となっている。ファストファッションとはファストフードと同様に、典型的なグローバルシステムが採用されている。つまり、最も安い人件費の国や地域で安く大量に作った製品を、全世界に展開したチェーン店で大量に販売して利益を回収するのである。

   一時期、中国がこうしたファストファッションの製造工場であったが、中国人の人件費が少し上がったことが理由でいっせいに撤退し、今ではバングラディシュなどの東南アジア各国やアフリカ諸国へとその拠点を移している。この世界では少しでも出遅れると一気に飲み込まれるだけに、凄まじい競争が展開されている。

   このグローバル競争に真っ向から勝負を挑んでいるのが、ユニクロの柳井正社長である。こう言えば、「頑張れニッポン!」と応援したくなるかもしれないが、すでに知られているように、柳井氏は日本でも指折りの「ブラック企業経営者」の筆頭としてその悪評はかなりのものである。かつてはメインターゲットであったはずの若者たちから、「マックロユニクロ」と蛇蝎(だかつ)のごとく嫌われている。

   それも当然で、ユニクロの離職率は3年で5割を越す。
   その多くは苛酷なハードワークに耐え切れず、心身を壊してリタイアしている。それだけではなく、ユニクロではサービス残業を厳しく禁じており、違反した場合には社員から罰金まで取る。しかもノルマは全然減らさない。つまり目的は、過労死や労災事故が起きた場合、「会社側では禁止していた」「勝手に働きすぎて死んだ」、といういい訳のために残業を禁止にしている。そもそも残業しなければ、こなせないノルマなのである。その挙句、社員が罰金を払うというとんでもない会社で、それはすでにブラックではなく、ラーゲリ(強制収容所)と言ってもいいくらいだ。

   2013年4月23日、柳井氏は朝日新聞のインタビューで、「世界同一賃金」をぶち上げた。彼の言い分は、途上国には年収100万円でも働く人がいくらでもいる。日本人だからといって自動的に何百万円ももらえると思うな。自分の本心は100万円でも働いてくれる彼らのほうを雇いたいのだ、とさえ言い切ったのだ。

   日本には最低賃金を定めた労働基準法がある。
   しかも日本の物価は世界的にも非常に高く、途上国では安く手に入るものも格段に高い。こうした日本国内で、いくら発展途上国の人間だからといっても、朝から晩まで働いて年収が100万しか手に入らなければ、誰でも満足に生活できないはずである。日本は途上国のような物価の安い生活条件の国ではないのである。

   そうした背景を無視した彼の発言は、言っていることが支離滅裂である。
   しかもそれを「日本への提言」として、平然と新聞に掲載する朝日新聞は、すでに公平な視点を欠いているという点で偏質的な新聞であると言える。ユニクロが莫大な広告料を支払ってくれて、しかも新聞記者はそういう記事を平気で掲載しても、年収が2000万もらえるのであれば、他の若者たちがボロ雑巾のように使い捨てされようと、どうでもいいことには違いない。

   年収100万円で倒れるまで働けという柳井氏は、経済専門誌「フォーブス」の長者番付では推定資産130億ドル(1兆3000億円)で世界66位であり、もちろん日本一の富豪である。自ら「ユニクロの服なんか着たことはない」と言い放ち、自社製品は貧乏人に提供するためのものであって、自分には必要ないと言っている。以前、私が柳井氏を取材したときには、上から下までユニクロ製品を着ていたものだったが、彼はあれからずい分と変わってしまったようである。こんな人物が率いるブラック企業を、「世界と戦う日本企業と日本人経営者」として、無条件に尊敬する若者がいるとしたらそれこそ問題であろう。

   しかしユニクロが躍進した1990年から2000年代半ばまで、ユニクロの評判は決して悪くはなかった。むしろ「安くてオシャレで質がいい」、と人々はユニクロの商品を買い求めた。そしてユニクロと柳井氏が嫌われるようになったのは、2005年以降のことである。それまではユニクロの衣料品は若者たちの味方であり、デフレ不況のなか、数少ない勝ち組みとして高く評価されていた。

   よくユニクロと比較されるのが「しまむら」であろう。
   しまむらの経営戦略はある意味わかりやすく、「まとめ買いで利益を出す」ということである。最小限のスタッフで運営する以上、従業員の給料は決して悪くはない。しまむらはパートの募集に、「地域最高額制度」を打ち出している。つまり100円、200円をけちらずに、優秀な人材を集めるほうが結果的に利益になることをよく理解しているのだ。しかしこうした手法は別に珍しいものではなく、大手ファミリーレストランなどはほとんどが採用している。そしてユニクロもまた、この戦略を採用していた。

   そしてこうしたマニュアルは、当然、日本の社会構造と日本人の特性に徹底して合わせてある。となれば当然だが、こうした企業の持つノウハウは日本にしか通用しない。だから日本のファミリーレストランや外食チェーンが、海外に進出してもほとんどうまくいかない理由がそれであり、つまり現地にあった運営ノウハウがないからである。

   ファストファッションとしてユニクロを成功に導いた柳井氏は、2002年にいったん引退を決めたことがあった。しかしこの時期を前後して、日本にグローバル系のファストファッションが本格的に参入して来たのである。しかも桁違いの資本力で大都市の中心地に、大型の巨大店舗を展開した。それを目の当たりにした柳井氏は復帰を決断し、再び経営責任者に返り咲いた。(略)ここで何かをしなければ、今日のユニクロは存在しなかっただろう。では柳井氏は何をして生き残ったのだろうか。

   彼は気がついたのである。「そうだ。従業員からむしり取ればいい」と。
   こうして「まっくろユニクロ」が誕生したのである。悪徳企業とブラック企業は似ているようでまったく違うものである。悪徳企業は「客」を騙して暴利を貪る。しかしブラック企業はその点が異なり、基本的に客は騙さない。なぜなら騙してむしり取る相手は、「従業員」だからである。

   2010年頃から「ブラック企業」が社会問題化し、2012年にはジャーナリストや有識者が集まって「ブラック企業大賞」なるイベントが開催されるようになった。そして2013年にブラック企業大賞を受賞したのは、「ワタミ」の渡邉美樹氏であった。渡邉氏は2013年7月に参院選に自民党から出馬したが、その時に自民党を支持しているネット保守派から猛烈な批判を浴びた。いずれにせよ、山口県出身の柳井氏が西の横綱とすれば、東の横綱は神奈川県出身の渡邉氏であろう。「無理と言うから無理になる。無理をさせてそれができたら、二度と無理とは言わせない」、という主旨の彼の有名な発言は、彼だからこそ言えるものである。

   安くて質のいい料理を提供して利益を出すには、マス(量)だけではすぐに限界が来るのはわかっている。しかも大手居酒屋チェーンは地価の高い駅前の大型店舗である。もうわかると思うが、つまり利益は「従業員」から出していくのである。1人が月50万円分の仕事をしたら、それを半分にして25万円は会社「ワタミ」の利益になる。それを100人の従業員から1人25万円ずつ搾取すれば、それだけで会社は月2500万円の「純利益」を得られる。しかも働く人が多ければ多いほど会社の利益も増えるわけで、「労働集約型」の産業ほど、ブラック化すればものすごく儲かるのである。

   「ワタミ」が事業として、居酒屋チェーンと新規で「介護」の会社を選んだのも、それが「労働集約型」だからだと思われる。もっと言うと、ワタミは自家農場も持っており、「新鮮食材」を謳っている。そしてその農場で何をしているのかは説明するまでもないだろう。つまり従業員にするのと同様に、仕入先や漁師などに、本来相手に払うべきお金を減らしていくことで利益を上げているのである。エグいやり方をすれば確実に利益は上がるのである。

   たとえ従業員が何ヶ月も休みを取れずに、毎日15時間労働で死にそうになるまで働いていたとしても、店では安くておいしい料理を出していれば、客はいくらでもやって来る。だから店は繁盛する。しかも割りに合わなくても、この場合儲けは客の支払いから出す必要はなく、従業員や仕入れから出すので会社の懐はまったく痛まない。だから安くておいしいのだ。これがブラック企業の経営戦略なのである。そして居酒屋チェーン以上に「労働集約型」の産業が、衣料品業界なのだ。

   衣料産業は、店舗で働くスタッフと、縫製作業をする大量の「人手」を必要とする。
   最近は中国からバングラディシュやベトナムへと切り替わっているようだが、そこで働く人たちの賃金を限界まで下げていく。もしここで賃上げを要求されれば撤退するだけであり、中国の場合がそうだった。その結果工場の経営者は、工場の維持と工員たちがギリギリ生きて行ける最低価格を提示することになる。仕方なく、本来支払われるべき賃金が限界まで下げられるのだ。下げられた分の差額はそのまま企業の儲けとなる。

   外国の場合、巨大企業は政府や政治家に、政治資金として多額の賄賂などを渡して移民の拡大を図ったりしている。さらに「現在の最低賃金は、言語、風習など義務教育を受けていることが前提になっているとして、移民にはそれがないので、最低賃金は引き下げるのは当然」だとしてロビー活動を行なう。

   柳井氏が、ことあるごとに「移民を入れろ」と発言するのは、グローバル企業の経営者ならしごく当たり前の世界基準の意見でもある。ブラック企業にすれば、景気が悪くなればなるほどいい。なぜならカモとなる従業員が放っておいても列をなしてやってくるからである。デフレは続けば続くほど彼らにとっては都合がいい。まっとうな企業は、客が支払うお金から利益を出すことを考えるが、ブラック企業はそうではない。そのゆえに価格競争をすれば絶対に負けない。自分の懐が痛むことは決してないからだ。その組み合わせを生み出すデフレ不況は、ブラック企業にとってまさにパラダイスだ。

   そのブラック天国でわが世の春を謳歌してきたのが、ワタミの渡邉氏であり、ユニクロの柳井氏である。ユニクロは日本のデフレ不況という追い風を受け、従業員から「生き血を搾り取る」ブラック企業へとシステム全体を切り替えた。そこに来てハイパー円高である。従業員から搾り取った1万円は、世界では「2万円」の価値を持ち、為替の恩恵で利益は膨れ上がる。こうしてユニクロは人の生き血を吸って生き延びる「ドラキュラ」の道を選んだ。柳井氏が世界で66番目の大富豪になったということは、彼が世界で66番目のドラキュラであり、日本で一番悪質な経営者という意味である。


   book 『マクドナルド化する世界経済』 ベンジャミン・フルフォード著 イースト・プレス

                           抜粋

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