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2015年5月17日日曜日

「老い」は治らない? 70歳からの失望しない生き方とは

言われなくても、当然ですが意識から乖離するお話ですね。

日本人の平均寿命は年々延び、男女ともに80歳を超え、いまや世界一の長寿国になりました。一方、健康体で生活を送れる「健康寿命」は男性で71.19歳、女性は74.21歳。男性は晩年の9年以上、女性では12年余りの期間、病気やけがで日常生活に支障が生じているという実態が浮かび上がります(図表1)。平均寿命が延びていても、元気で生活できる期間はそれほど長くないのです。
 個人差はありますが、人間の体は加齢とともに骨や血管がもろくなり、肺活量が減り、筋力も落ちるなどすべての臓器が弱って身体機能が低下します。また耳が聞こえにくい、目が見えにくい、関節が痛い、転びやすいといった高齢者特有の不自由な症状も、身体機能の低下が主な原因です(末尾参照)。
 ベースが弱くなっているわけですから、病気やけがをしやすく、どこか1カ所が悪くなると全身に影響が広がってしまいます。悪い部分だけ治療すればすぐに健康を取り戻すことができていた若いころと違い、回復には時間がかかり、病気やけがで寝込んだことをきっかけに自力で食事を取れなくなったり、足腰が弱ってそのまま寝たきりになったりすることも少なくありません。糖尿病や高血圧症といった一生つきあう病気にかかる人も増えます。いくつも持病を抱えて、何種類も薬を飲んでいる人も多くなります。
 また身体面だけでなく、精神面の健康も無視できません。とくに深刻なのは、老いによる心理的ストレスです。白髪や薄毛、しわ、曲がった腰といった外見の衰えに加え、今までできていたことができなくなり、悲しみや先々の不安が生じます。また周囲から年寄り扱いされたり、虐待を受けたりすることもあります。さらに社会の役に立たなくなってしまったという無力感や孤独感、配偶者や同年代の友人の死など、高齢者の周りには、周囲が思う以上にさまざまなストレスが存在するのです。それまでの人生観や社会的な背景が大きく影響することも、長く生きてきた人ならではの特徴でしょう。
 こうしたストレスはうつなど心の病に直結するだけでなく、「足が痛い」「だるい」といった体の症状として現れることもあります。高齢者の場合、ちょっとした症状一つにも、さまざまな問題が複雑に絡んでいるのです。
 日本は戦後、高度経済成長とともに科学技術も著しく発展した結果、かつては死に至っていた多くの病気を治療可能にしてきました。平均寿命が大幅に延長したのは、こうした医療の進歩による部分も大きいでしょう。iPS細胞や認知症の進行を遅らせる薬の開発などが進み、老いですらいつか科学の力で治療できるのではないかと勘違いしてしまいがちですが、完全に老いを克服できるものはありません。
 老いは治るものだという希望を持ち続け、不具合を元に戻そうと躍起になると、普段の生活において失望することのほうが多くなってしまいます。たとえば尿漏れやもの忘れは自分だけと悩んでいる人が多いのですが、周囲の同世代に聞いてみれば多かれ少なかれ経験しているはず。医師や気心の知れた人に話すだけでふっと気持ちが軽くなることもありますし、心地よく暮らすヒントを得られるかもしれません。
 すべての人に訪れる老いのプロセスを受け入れ、不具合や病気が生じたときは完全に元に戻すことを目指すのではなく、上手にコントロールしながらつきあっていけばいい。気楽に楽しく生きることが、健康寿命の延長につながっていくのではないでしょうか。

【加齢による体の変化】
脳:新しいことを覚えにくくなり、もの忘れが増える
口:唾液が減少し渇く。のみこみづらくなる。歯が抜けやすくなる
呼吸器:肺活量が低下し、動くと息切れしやすくなる
心臓・血管:血管が硬くなる(動脈硬化)。心臓が弱くなり動悸を感じる
泌尿器:トイレが近くなったり尿漏れを起こしたりする
関節:靭帯や腱が硬くなり、関節の動きが悪くなる
目:視力が低下、近くも遠くも見えづらくなる
耳:高音域が聞き取りづらい。耳が遠くなる
骨:骨量が減少し、痛みや骨折を起こす。背中が曲がる
消化器:消化能力が落ちる。便秘気味になる
皮膚:乾燥し、弾力が低下する。感覚が鈍くなる
筋肉:筋肉の量が低下する。転倒しやすくなる
※週刊朝日MOOK「人生の再設計ガイド 70歳からのお金と暮らし」より抜粋

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